ハナサケハートフルハーモニー!

この文の後ろに花畑がある、ということにしておいてください。

【読書感想】『すばらしい新世界』幸福を提供できない社会と、アウトサイダーについて

すばらしい新世界』で描かれるのは、読書や文学、科学、宗教以外の娯楽が提供される社会。独りでいることはありえず、みんなで行動することが当たり前の社会。一夫一妻制の結婚はあり得ず、全ての女性と性的関係を結ぶ、女性をみんなでシェアする社会。このように聞くとよさそうな社会に見えるかもしれないが、よく考えると完璧とは言えない。

まさに読書や文学、宗教などを好む人にとっては地獄だし、独りでいたい人には生きづらい。処女や一途を求める人には不潔でたまらない。でもそういう文句が出ないように、出生時から徹底的な洗脳と刷り込みがされるのなら、確かに社会に文句を言う人はいなくなるのだろう。

僕が仮にこの「すばらしい新世界」で、幸運にも欠陥のないアルファプラスに生まれたとしよう。そうなれば、社会になんの不満を抱くこともなく、与えられる幸福や娯楽を貪り尽くしているいることだろう。絶対こんな見る人の少ない*1ブログにう〇〇みたいな文章を垂れ流すなんてことはしていないし、長時間かけて読書することもしない。きっと。

でも現実の僕はこうしてブログを書き、本を読み続けている。ついでに処女信奉を完全に捨てきれていない。なぜこうなったのか?

「社会という車輪を安定的にまわしつづけるのは、万人の幸福だ。真実や美に、その力はない。そしてもちろん、大衆が権力を握ったとき、問題になるのは真実や美ではなく、幸福だった。」(ムスタファ・モンド) P316 

 「すばらしい新世界」では、まやかしであっても幸福な世界を国民に提供することができている。でも僕たちが生きている現代ではそうじゃない。幸福は国が保証してくれるものではないので、自分たちで探すしかない。だからこそ、みんがみんなそれぞれの方法で真理を探し求めている。僕にとっての真理を探すツールが、読書とかブログに書きなぐることだったというわけだ(処女もきっと何かの真理に辿り着くためのピース……本当に?)。

 

幸福が得られないからこそ、僕たちはイバラの道を敢えて進み、時には血みどろになりながらも自分なりの真理を探そうとするのではないだろうか。そういう崇高な理由がないと、僕のやっていることは意味を失くしてしまうように感じる。それが怖い。

 

もう1つ語りたいのが、この文章の部分。

「僕は不幸になる権利を要求する」(ジョン) 

「老いて醜くなり、無力になる権利はもちろん、梅毒や癌にかかる権利、食料不足に陥る権利、虱にたかられる権利、あしたはどうなるかわからないという不安をつねに抱えて生きる権利、腸チフスになる権利、あらゆる種類の言語に絶する苦痛に苛まれる権利も」(ムスタファ・モンド)

「そのすべてを要求します」(ジョン) P333

 ジョンがこのように幸福を切り捨てて不幸を要求する部分になる。彼はなぜこのようにタフ極まりない選択ができたのだろうか?

それはジョンが苦難を受け入れる生き方しか知らなかったからだと思う。ジョンは幼少の頃から、肌が白いことでいじめられ*2、母が暴力を受けるところを見て、一緒に生活していたポぺが母と一緒に寝ていることでドス黒い感情が渦巻いたりと、苦しい経験ばかりしてきた。その中で必死に拠り所を見つけようとした。そのことが影響して、何の苦労もしていない「すばらしい新世界」の住民、苦労を一切与えず、幸福ばかり提供する「素晴らしい新世界」を異質なものと考えたのだろう。アウトサイダーでなければ分からない歪みに気付いたわけだ。

この、何らかの形で社会から阻害され、その中に溶けこめなかったことで歪な感情を形成するアンチヒーローは、ディストピア作品でしばしば見られる(あくまで僕の見てきた範囲内でだが)。例えば『PSYCHO-PASS』では、免罪体質になったが故に社会から正しく計測されない、浮いた存在になってしまった槙島聖護、同作品で100体以上の死体をつなぎ合わせたが故に、死人として判定されサイマティックスキャンに感知されず、社会から存在しない扱いとされてしまった鹿矛囲桐斗。『ハーモニー』では、健康状態を社会がすべて管理することを受け入れられず、死ぬことで監視から逃れようとした御冷ミァハ。東海道新幹線車内殺傷事件を起こした、自分は価値のない人間だ、見事に殺しきった、と発言した小島一朗被告。みなそれぞれのやり方で、自分のイレギュラーな思想を、生き方をみせることで、社会に問いかけたのだと思う。

極論になってしまうだろうが、みんな、異質であっても社会に受け入れられたかったのだと僕には思える。しかしその結果は、社会側が受け入れす抹殺してしまう、というかたちに終わるのがほとんどだけれども。

 

幸福な生き方を求めるのも、社会に絶望してアウトサイダーになるのも、どちらも修羅の道なのだと、この本を読んで学んだ。

 

 

 

 

*1:2019/11/30現在、このブログの1週間の平均アクセス数は100にも満たないことが多い。互助会落ちしてもしかたないね。

*2:ジョンの生まれ育った集落は黒人のインディアンのみだったため